1. 政府は1月14日の閣議で、2015年度政府予算案を決定した。一般会計の総額は96兆3,420億円(2014年当初比0.5%。以下、「同比」という。)と前年度に続き過去最大を更新した。歳入のうち、税収は消費税率8%引き上げなどの影響により54兆5,250億円(同比+9.0%)と大幅増を見込み、新規国債発行額は36兆8,630億円(同比▲10.6%)と4年ぶりに40兆を割り込んだ。主な歳出では、社会保障関係経費は31兆5,297億円(同比+3.3%)、公共事業費は5兆9,711億円(同比+0.0%)とし、税収増を背景に2015年度に赤字半減とする政府の財政健全化目標は達成する見通しとなった。防衛費は3年連続増で過去最大の4兆9,801億円(+2.0%)とし、安倍カラーを鮮明に押し出した。
  2. 政府は1月9日、一般会計政府予算案に先立ち、2,500億円の地域消費喚起・生活支援型、1,700億円の地方創生先行型の地方向け交付金を含む3.1兆円の2014年度補正予算案を閣議決定した。しかし、株高で恩恵を受けている一部を除けば、円安による物価上昇で実質賃金は下落を続け、消費は落ち込み、地方や中小零細企業の景気は冷え込んだままである。政府は地方向けの交付金により、個人消費と地方経済を刺激するとしているが、一過性の政策で景気浮揚は全く期待できない。国民生活を破壊するアベノミクスを中止し、賃上げと雇用安定をはかり内需主導の経済構造へ転換をはかるべきである。
  3. 社会保障費については、介護報酬の引き下げなどで、高齢化による自然増の大幅な抑制をはかるとともに、消費税率10%の引き上げを延期し、介護や年金の低所得者対策などの社会保障の充実策を先送りした。社会保障・税一体改革は、消費税10%引き上げを前提に社会保障の充実・安定化をはかるものだが、アベノミクスによる経済失政により、改革を後退させた責任を厳しく問わなければならない。政府は、社会保障制度の持続可能性と機能強化にむけた対策を講じるべきである。
  4. 税制改革については、2014年12月30日に「与党税制改正大綱」が決定された。最大の焦点となった法人実効税率は、2015年度の単年度で2.51%、2016年度までに3.29%引き下げ、2年で約4,200億円程度の先行減税を進めた。自治労は、法人減税そのものに反対してきたが、地方税収の安定と税源偏在の縮小をはかり、代替財源の一部として法人事業税の外形標準課税の充実を進めた点は理解できる。しかし、課税ベースの拡大を通じた代替財源の確保はなお不十分であり、極めて問題である。今後、安倍政権は法人実効税率を20%台に引き下げるとしているが、代替財源の確保を前提とすべきである。
  5. 贈与税については、住宅購入資金に係る経費に係る非課税の期限延長と非課税枠の拡大に加え、結婚や出産などに係る費用に1,000万円の非課税枠を新設するなど、富裕層への優遇税制が打ち出され、一層の格差拡大が懸念される。その一方で、所得税や相続税の累進税率の引き上げ、資産課税の強化は不十分であり、所得再分配機能強化にむけ税制改革を進めるべきである。
  6. 地方財政は、歳入・歳出規模を85兆2,700億円(同比+2.3%)に増額し、歳入のうち地方税等と地方交付税を合わせた一般財源総額は過去最高の61兆5,485億円(同比+2.3%)と1兆1,908億円もの増額をはかった。法人実効税率の引き下げや歳出削減の圧力が強いなかで、自治労が求めてきた一般財源総額を増額した点は評価できる。地方税等の大幅な増収を見込んだため、税収との差し引きで決まる地方交付税は、16兆7,548億円(同比▲0.8%)とし、交付税原資の安定性をはかるため、法人税の法定率を引き下げ、たばこ税の繰り入れをやめる一方、所得税と酒税は法定率の引き上げることとした。政府は、法定率見直しで900億円分の交付税原資の増加を見込んでいるが、将来にわたり交付税原資の充実、安定に寄与するのか厳しく検証する必要がある。
  7. 地方創生に必要な経費として約1兆円の「まち・ひと・しごと創生事業費(仮称)」を新設した。地方創生の経費を地財計画に計上したことは一定評価できるが、将来にわたる安定財源とはいえず、経常的な財政需要に位置付け地方創生に取り組む姿勢を示すべきである。また、財源の一部は法人住民税法人税割の交付税原資化に伴う偏在是正効果を充てており、国の財源保障・財政調整の責任を放棄し、地方間の財政調整を委ねたことは問題である。さらに、「まち・ひと・しごと創生事業費」の算定は、2014年度に創設した行革努力を算定する「地域の元気創造事業費」に加え、地方創生の取り組みに応じた成果配分を強化しようとしており、客観・中立であるべき地方交付税算定に反するものとして国会審議で追及しなければならない。
  8. 財務省が全廃を主張した歳出特別枠は、財源の一部を「まち・ひと・しごと創生事業費」などに振り替えた上で8,500億円確保した。地方自治体の財政運営に重要な財源であることや厳しい地域経済の状況からすれば当然の措置だが、依然として歳出特別枠の扱いは不安定であり、臨時的な財源から経常的な財源へと転換を促す取り組みが必要となる。
  9. 退職手当を除く給与関係経費については、18兆5,300億円(同比+0.3%)とし、総合的給与の見直しなど厳しい状況にあるなかでプラスとした。総務省「地方財政審議会」の意見(2014年12月26日)で「給与関係経費はピーク時から大幅に減少しており、地方創生への取組も求められる中、これまでと同様の対応を続けることは困難」と報告しているとおり、各県本部・単組は、一般財源と給与関係経費の増額を根拠に、賃金水準の確保にむけて全力を挙げる必要がある。
  10. 2015年度の赤字半減目標は達成する見込みだが、政府は2020年度の黒字化達成にむけた計画を2015年度の夏までに策定することとしている。消費税率の引き上げ延期や法人実効税率の引き下げに加え、景気頼みの不安定な税収のもとで、無理に財政健全化目標を達成しようとすれば、社会保障と地方財政の歳出削減圧力が強まることが予想される。財政健全化目標が固まる夏までが正念場であり、社会保障と地方財政の充実にむけ、自治労の総力を挙げた取り組みが必要となる。
  11. 2015年度の地方一般財源総額は確保されたが、各県本部・単組は、地財計画の水準と当該自治体の一般財源や人件費、社会保障費の動向と著しいかい離がないか点検し、自治体予算の確立にむけて労使協議、議会対策を進める必要がある。自治労は、当面する通常国会で公共サービスの充実にむけて予算確保に取り組んでいくこととする。

2015年1月15日

全日本自治団体労働組合

書記長 川本 淳

 

 

2015政府税制改正大綱

地方財政対策資料(総務省)

地方財政審議会(20141226)

政府予算のポイント(財務省)