少々、古い情報で申し訳ないが、昨年の3月24日付けのワシントン・ポスト紙の「安倍首相のダブスタ発言」と題した社説=下記に全文=をとりあげたい。
「拉致」の解決にとって、日本のマスコミが報道しない核心的な主張が散見されるので、紹介しておきたいと思うからだ。
要約すると「社説」は、日本政府が拉致の解決を北朝鮮にもとめるなら、それと比べても証拠が劣らない従軍「慰安婦」問題に関して、政府としての責任を認め、謝罪と補償を行うべきだ、というもの。
つまり、「拉致」も「慰安婦」問題も、人を騙して、誘拐して、あるいは強制的に連行していった、という点で、重大な人権侵害であり、同義語なのだと、この「社説」は言いたいのだと思う。
日本で「拉致」の問題を論じる場合、そのほとんどは「対北朝鮮」というアングルでしかみないように思える。
しかし、「拉致」問題は従軍「慰安婦」問題だというのが、日本のもっとも「良き理解者」であるはずの米国の世論とはなんとも皮肉な話である。おそらく、韓国も中国も同じ見方であろう。
それから、4月後の7月30日、米国下院で、従軍「慰安婦」問題に対する決議案が可決された。それからオランダ、カナダ、そして欧州議会でも同様の決議が採択されている。
「慰安婦」問題の解決なくして、「拉致」問題の前進はないように思う。
ワシントンポスト 2007年3月24日社説
■安倍首相のダブスタ発言 (原題:"Shinzo Abe's Double Talk")
北朝鮮問題をめぐる六者協議で、今週一番タフだったのは、ブッシュ政権ではなかった。 ブッシュ政権は、北朝鮮の要求する2500万ドルの預金を送金するため四苦八苦していた のだ。一番タフだったの日本であった。
日本政府は、数十年前に北朝鮮が拉致したとされる17人の日本人についての情報を提供するよう北朝鮮に要求しており、回答がある までは関係改善協議を一切拒否するとしている。
こうした強硬な政策は安倍首相の倫理 重視主義を反映するものだ。安倍首相はこれまでも、国内での支持率低下を回復させる ために日本人拉致被害者(その中には13歳で拉致されたとされる少女もいる)を利用して きた。
安倍首相が北朝鮮側の非協力的態度を批判すること自体は当然のことだ。しかし、第二 次大戦中に日本が何十万人もの女性を強制連行・強姦してセックス奴隷にしたことに対 する日本の責任を認める立場を後退させる動きを、これと並行して安倍首相が見せているのは、奇怪であり人を不快にさせるものだ。
アメリカ下院で、日本の公式謝罪を求める 決議案が審議中であることに対して、安倍首相は今月2度にわたり声明を出し、日本軍が強制連行に関与したことを裏付ける文書は存在しないと主張した。
先週末に出された 閣議決定は、いわゆる慰安婦に対する日本の残虐な扱いを認めた1993年の官房長官 談話を後退させるものであった。
この問題についての歴史的記録は、北朝鮮が日本人(うち何人かは教師や翻訳者にされた)を拉致したという証拠と比べて、説得力において劣るものではない。
歴史研究者らによれば、朝鮮・中国・フィリピンなどアジア各国で奴隷化された女性は20万人にも及ぶ。強制連行には日本兵らが関与したという。多くの生存者が、自らの恐ろしい体験を証言している。
その中には、先ごろアメリカ下院で証言した3人の女性も含まれる。日本政府が、彼女たちの被害に対する責任を完全に認めて補償したことが今まで一度もない というのは、悪いことだ。
そして、従来の談話の立場を安倍首相が後退させているのは、主要民主主義国家の指導者としては恥ずべきことだ。
安倍首相はもしかすると、強制連行に日本政府が直接関与したのを否認することが、北朝鮮に回答を要求するにあたっての日本の倫理的立場を強化すると思っているかもしれない。
しかし、それは大間違いだ。日本人拉致被害者に関する情報を得るための国際的支援を欲しているのであれば、安倍首相は日本自身が犯した罪についての責任を率直に認め、自分が中傷してきた被害者たちに対して謝罪すべきである。
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